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札幌高等裁判所 昭和49年(ネ)263号 判決

控訴人 山本馨

被控訴人 上磯町漁業協同組合

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

第一当事者双方の求めた裁判

一  控訴人

(一)  原判決中控訴人に関する部分を取消す。

(二)1  被控訴人が昭和四八年一一月二八日被控訴人の組合員滝本正雄に対し同人が昭和四九年一月一日から昭和五三年一二月三一日まで北海道上磯郡上磯町地先A級沖一号小定置漁場(以下「A級沖一号」という)において小定置漁業を操業することを承認した意思表示の効力を仮に停止する。

2  控訴人は、右の期間において、かつ本案判決確定に至るまで右漁場において小定置漁業を操業することができる。

(三)  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

との判決。

二  被控訴人

主文と同旨の判決。

第二当事者双方の主張

一  控訴人の申請の理由

(一)  被保全権利

1 被控訴人は水産業協同組合法に基づき昭和二四年設立された組合員一七〇名位を擁する漁業協同組合であり、控訴人はその組合員である。

2 被控訴人は、昭和四八年九月一日北海道知事より北海道上磯郡上磯町沿岸海域における渡海第二四号、第二、第三種共同漁業権(以下「本件共同漁業権」という)の免許を受け、じ来右共同漁業権を有するものである。

3 ところで、被控訴人が本件共同漁業権について制定した渡海第二四号第二、第三種共同漁業権行使規則(その内容の一部は別紙一記載のとおりである。以下同規則を「本件共同漁業権行使規則」という)は、被控訴人の組合員のうち、別紙一記載の同規則二条所定の実質的資格と被控訴人の理事から本件共同漁業権に関し漁業を営むことにつき同規則三条所定の承認を受けたという形式的資格とを備えた者が、漁業法八条一項所定の共同漁業権行使規則で規定する資格を有するものとして、本件共同漁業権の範囲内において漁業を営む権利を有することになる旨定めている。

4 控訴人は、先ず、本件共同漁業権行使規則二条所定の実質的資格を備えている。また、控訴人は、昭和四五年一月一日被控訴人の理事から、当時被控訴人が有していた本件共同漁業権の目的海域と同一海域についての第二、第三種共同漁業権(昭和三八年九月一日北海道知事免許にかかるものであつて、これについても被控訴人は本件共同漁業権行使規則と同一内容の共同漁業権行使規則を制定してあつた。本件共同漁業権は、右共同漁業権が一〇年の存続期間を満了した日の翌日に免許されたものである)につきA級沖一号において小定置漁業を営むことにつき承認を受け、じ来後述(二)の1の事態がおこるまで右漁場において小定置漁業を営んできた。

被控訴人の理事のした右承認は、被控訴人が昭和四八年九月一日本件共同漁業権の免許を受けたのちは、本件共同漁業権行使規則三条所定の承認を受けたものとしての効力を有するものである。

5 以上により、控訴人は、本件共同漁業権に基づきA級沖一号において漁業法八条一項所定の漁業を営む権利としての、小定置漁業を営む権利を有するものである。

(二)  仮処分の必要性

1 ところが、被控訴人は、昭和四八年一一月二八日、本件共同漁業権のうち小定置漁業につき、訴外組合員滝本正雄(以下「滝本」という)に対し、同人が昭和四九年一月一日から同五三年一二月三一日までA級沖一号において小定置漁業を営むことを承認する旨の決定をなし、同日右決定を控訴人を含めた被控訴人の各組合員に通知し、右通知はその頃控訴人に到達したので、控訴人は、事実上、A級沖一号において前記漁業を営む権利を行使しえないこととなつた。

2 そこで、控訴人は、被控訴人に対し、直ちに右承認決定についての異議申立てをなしたが、被控訴人は、昭和四八年一二月六日控訴人に対し右決定を維持する旨の回答をなし、右回答はその頃控訴人に到達した。

3 控訴人は、昭和四八年中A級沖一号において営んだ小定置漁業によつて一年間金五八〇万円の粗収入(右収入金から経費等を控除しても一年間の純収益は約金一〇〇万円)を得て、妻と学生である娘二人を養つて来た。控訴人は、右小定置漁業以外において、帆立貝の収穫により一箇年当り金一五万円、家屋の賃貸により一箇月当り家賃金三万円の各収入を得ているが、これらは家屋の修繕費等に充てる必要があるため、結局右小定置漁業で生計を立てている実状である。しかも、控訴人は、他種漁場へ移ることは、控訴人の年令(大正一一年七月一二日生)、体力、技術の面からみて不可能であり、小定置漁業以外で生計を立てることは著しく困難であるから、本案判決を待つていては、著しい損害を被むるものである。

(三)  結論

よつて、控訴人は、前記(一)の5に記載の、本件共同漁業権に基づき漁業法八条一項に規定する漁業を営む権利を被保全権利として、前記第一の一の(二)の1、2記載のとおりの仮処分を求める。

二  申請の理由に対する被控訴人の認否

(一)  申請の理由(一)の1ないし3はいずれも認める。

(二)  申請の理由(一)の4前段は認める。同後段については、被控訴人の理事のした控訴人主張の承認が、控訴人が本件共同漁業権の免許を得たのちは、本件共同漁業権行使規則三条所定の承認を受けるものとしての効力を有したことを認め、現にかかる効力を有することは争う。

(三)  申請の理由(一)の5は争う。

(四)  申請の理由(二)の1及び2はいずれも認める。

(五)  申請の理由(二)の3のうち、控訴人が小定置漁業以外で生計を立てることが著しく困難である点は否認し、その余は争う。

(六)  申請の理由(三)は争う。

三  被控訴人の抗弁

(一)  被控訴人の理事は、前記一の(一)の4記載のとおり、昭和四五年一月一日控訴人に対し、当時被控訴人が有していた、本件共同漁業権の目的海域と同一海域についての第二、第三種共同漁業権に基づきA級沖一号において小定置漁業を営むことの承認をなした際、右承認の有効期間を四年間即ち昭和四五年一月一日から同四八年一二月三一日までと定めて、これを控訴人に通知した。なお右共同漁業権は昭和四八年八月三一日をもつて一〇年間の存続期間を満了することになつていたが、右存続期間が満了すれば、被控訴人がまた新らたに北海道知事から右共同漁業権と同一内容の共同漁業権の免許を受けることができることは確実と予想されたので、右承認における四年の有効期間は、被控訴人が昭和四八年八月三一日まで有する前記共同漁業権と被控訴人が昭和四八年九月一日に免許を受けて取得すべき共同漁業権即ち本件共同漁業権の双方にまたがるものとして定められたものである。

(二)  そうすると、前記承認の有効期間の終期の日である昭和四八年一二月三一日の経過とともに控訴人は、本件共同漁業権に基づきA級沖一号において漁業法八条一項所定の漁業を営む権利としての小定置漁業を営む権利を失つた。

四  抗弁に対する控訴人の認否

(一)  抗弁(一)は認める。

(二)  抗弁(二)は争う。

五  控訴人の再抗弁

(一)  前記三の(一)に記載の承認についての四年の有効期間なるものは、被控訴人の理事が承認をなした際考慮した承認基準に定める条件が存続しているかどうかを承認の時から四年後に確認するために設けられたものにすぎないから、右承認の有効期間満了後でも、控訴人が本件共同漁業権行使規則二条所定の実質的資格を備えているかぎり、控訴人が被控訴人の理事に対し右承認の有効期間満了後において引き続き前記漁業を営むことの承認の申請をなしたにもかかわらず、右理事がこれを放置して承認をしない場合、又は右理事が控訴人以外の他の者に対し右漁業を営むことの承認をなしても右承認が無効である場合においては、控訴人は、本件共同漁業権に基づきA級沖一号において漁業法八条一項所定の漁業を営む権利としての小定置漁業を営む権利を失わず、依然としてこれを有するものである。

右の理由を詳述すると次のとおりである。

被控訴人の理事から被控訴人の有する共同漁業権に基づき漁業を営むことにつき承認を得た者が右承認の有効期間の満了により右の漁業を営む権利を当然失うか否かについて正当に理解するためには、まず、漁業法に基づく都道府県知事の漁業権免許及び漁業権の存続期間の法的性質について考察する必要がある。鉱業法に基づく鉱業許可は、一般に特許、即ち設権行為と解されているが、同法二条の明文及び土地所有権から切り離された地下鉱物資源の採掘権能という特性からみて、鉱業許可が鉱業権という私権の設定行為であることは疑いを入れないところである。漁業免許についても、漁業法の字句、「漁業権の設定を受けようとする者は、都道府県知事に申請して、その免許を受けなければならない」(同法八条)、「漁業権は物権とみなし」(同法二三条)云々から考察すれば、鉱業許可と同様に特許と解されるかにみえる。しかし、漁業法一条は、「漁業権」以前に「漁業者」、即ち漁業を営む者(水産業協同組合法にいう「漁民」と同じ)の存在を予定していることから明らかのように、水産動植物の採捕、又は養殖事業は、漁民の先占行為であつて、歴史的に本来自由であるべきものである。ところが、これを放任していると、水面の総合的利用、漁業生産力の発展、漁村の民主化が阻害されるので、漁業自体を一般的に禁止し、これらを阻害しない条件が公権的に確認された場合に、この禁止を解除することにしなければならない。以上のように見てくると、漁業免許は、講学上の「許可」であると解すべきである。そして、右許可によつて生ずる法律上の地位、即ち漁業を適法に行なうことができる地位に漁業権として権利性を付与したものと解すべきである。ところで、漁業法二一条によれば、漁業権の存続期間が免許の日から起算して一〇年もしくは五年と法定されているほか、都道府県知事は右法定期間を短縮することができるとされている。後者は、いわゆる漁業免許の附款、即ち期限(終期)である。従つて、右法定期間の経過、もしくは期限の到来の場合は、漁業免許の再申請を行なわなければならない。これを形式的に解すれば、期間の経過、期限の到来によつて、漁業を適法に営むことができる地位(漁業権)が「無」になり、再免許がある迄は、一般的禁止に復するかに見えるであろう。しかし、これでは、漁業を主たる生活源とし、これに資本を投下している漁民の生活権は確保されず、明らかに不当である。ここで、鉱業許可(特許)に関する法制を見よう。鉱業法一八条、二〇条によれば、試掘権の法定期間(二年)の満了後でもその申請が拒否されるまでは、その試掘権は存続するものとみなすとされている。従つて、申請が違法に却下された場合は、その効力を停止することによつて、法的状態は継続し、試掘を適法に続けることができるのである。これは、鉱業が継続的事業であり、かつ多大の資本が投下される事業であるという実態に照らし、法定期間の満了により、法定状態が「無」に帰すると解することが不当であるが故に設けられたものであるが、その実態は、漁業も同じである。しかも、特許にあつてさえ、かかる法的配慮がなされているのに、一般的禁止の解除にすぎない漁業免許の場合に鉱業法二〇条の如き規定がないというだけで、法定期間の満了、もしくは期限の到来により法的状態は「無」になると解することは余りにも不当であろう。ところで、一般に、行政法の適用について、既得権、もしくは継続した法律上の地位が尊重されるべきであるとの理念が定着している。そして、この理念から、行政行為に付される期限についても、「一般には、許可、又は特許の条件の存続期限の性質をもち、その期限の到来により、その条件の改訂を考慮する趣旨と解すべきで、期限の到来によつて当然に許可、又は特許が失効するものと解するのは妥当でない」と理解されている。そこで、再び漁業法を見よう。同法は漁業免許を優先順位によるものとし、順位基準を定めているが、そこでは、漁業既得権と漁民の生活権が最大限に尊重されているのであり、免許の不適格要件としては、消極的に遵法精神の欠如、もしくは漁村の民主化を阻害する者を挙げているにすぎないのであるが、共同漁業権に関しては、漁業協同組合もしくは、その他の法人の資格要件を定め、これに該当する限り、最優先順位が与えられる。従つて、共同漁業権の免許は、漁業共同組合、もしくは法人が、法定の要件を充たすかどうかの公的確認だけを目的としているといつても過言ではない。とすれば、共同漁業権について一〇年の法定期間もしくは期限を定める意味は、漁業協同組合もしくは法人の資格要件が免許後に失格するような場合をチエツクすることにあると解すべきであり、期間満了もしくは期限の到来によつて当然には共同漁業権は消滅しないと解するのが相当である。従つて、共同漁業権の再免許申請が違法に却下された場合は、鉱業権と同じように不許可の執行停止決定を得ることによつて適法に漁業を営むことができるのである。以上のように見てくると、共同漁業権に伴う漁業法八条一項に規定する漁業を営む権利の性質も右と同様に解すべきである。そうだとすれば、前記主張のとおり承認の有効期間は、前記承認基準の条件の存続を確認するために設けられているものにすぎないというべきである。

(二)  しかして、控訴人は前記承認の有効期間満了後においても本件共同漁業権行使規則二条所定の実質的資格を備えているものである。ところで、控訴人は、右有効期間の満了前に被控訴人に対し、右有効期間満了後も引き続きA級沖一号において小定置漁業を営むことにつき承認するよう申請したところ、被控訴人の理事は、右申請につき承認をなさず、前記一の(二)の1に記載のとおり昭和四八年一一月二八日滝本に対しA級沖一号において右漁業を営むことを承認する旨の決定をなした。しかし、右理事の滝本に対する右承認は、次の(三)の1及び2に記載の理出により無効である。

(三)1  A級沖一号については、控訴人のほかに滝本が、被控訴人に対し、小定置漁業を営むことにつき承認を求める申請をなしていたので、控訴人と滝本の競願のかたちになつた。そこで、被控訴人の理事によつて構成された理事会は、本件共同漁業権行使規則及びこれに基づいて定められた別紙二記載の昭和四八年度小定置網漁業権行使承認基準(以下「本件承認基準」という)に各競願者の過去数年間の実績を資料としてあてはめて優先順位者とすべき者を審査し、その審査結果に基づき被控訴人の理事は、次の(1) ないし(3) の理由により、滝本に対し、A級沖一号における小定置漁業を営むことの承認をなしたのである。

(1)  控訴人は、当該漁場に対する生計の依存度において滝本に劣る。即ち、右漁業以外からの収入についてみると、滝本には網工場から得る収入があり減点されるが、控訴人にも固定資産から得る収入があるから減点される。また小定置漁場における操業状態を比較すると、控訴人は同級及び隣接する網に比して揚網の期間が長く、また著しく生産性が低い。滝本にはそのようなことはないので、右の事情は控訴人の小定置漁業への依存度が滝本よりも低いことを示している。

(2)  控訴人は、当該漁業についての経験の程度において滝本に劣る。即ち、滝本はA級沖一号において漁業を営んだ経験がないけれど、控訴人は、前記のとおり揚網期間が長いので、それだけ経験が少いものとみなされる。右の点で両者を比較すると経験の程度において、控訴人は滝本に劣る。

(3)  控訴人は、被控訴人が行つている各種事業に対する協力度において滝本に劣る。即ち、滝本は、信用販売、利用事業に対する協力度において範たるものがあるが、控訴人は特に煮干しいわしを控訴人へ出荷するのが少く、また貝類を除く鮮魚の出荷に被控訴人のトラツクを利用することが少いことで滝本に大きく劣る。

2  しかし、右承認決定は、漁業法及び本件共同漁業権行使規則に違反し、かつ被控訴人の理事会の裁量権を逸脱したものであるから、無効である。その理由は、次の(1) ないし(5) において述べるとおりである。

(1)  手続上の欠陥として、右承認決定に先立ち、右承認申請について審査をなしたのは、被控訴人の理事会であるが、その実質的な審査は昭和四八年一一月一八日からなされたものであるところ、被控訴人の理事の一人である訴外山本隆に対しては、同年同月一三日以降右理事会の開催の招集通知がなされなかつたため、山本隆欠席のままで審査が行われた。山本隆は、同年同月一七日に被控訴人に対しその理事をも辞任したい旨の意思表示をなしたものの、同年一二月一二日後任の訴外松山哲男が被控訴人の理事に就任するまでは理事としての権利義務を有していたものであるから、山本隆に対し右理事会の招集通知をしなければならなかつた。しかして、もし山本隆に対し右通知がされていたならば、同人は、控訴人の実弟であつて前組合長の地位にあつたものであるから、右理事会に出席して、審査の内容の不当を一般組合員に訴えたり、他の理事に説得したりしたはずであるから、審査の結果が異る可能性があつた。従つて、被控訴人が山本隆に対し右理事会の開催通知をしなかつたことは、本件審査、ひいては前記承認決定を無効にする重大な手続的瑕疵である。

(2)  漁業協同組合が漁業法八条により漁業権行使規則を定めるのは、地元地区水面の合理的利用、地元漁業生産力の向上及び地元漁業の民主化を図り、かつ組合員間の営漁順位を適正に配置するためである。即ち、右漁業権行使規則は、いわばミニ漁業法ともいうべきものである。従つて、右漁業権行使規則による漁業協同組合の理事の漁業を営むことについての承認は、都道府県知事の漁業権の免許に相当するものであるから、右漁業権行使規則に定める承認基準は、漁業法に定める免許基準に牴触してはならないと解すべきである。ところで、漁業法においては、前記(一)において詳述したとおり既得の地位が最大限に尊重されているのであるが、本件共同漁業権行使規則一一条一項によれば、漁業法一六条一項ないし四項に規定する優先基準、即ち既得の地位は無視され、同規則には、右承認の基準として、都道府県知事が漁業権の免許申請をなした同順位者のうちの誰に右免許をなすかについて審査する際漁業法において勘案すべき旨定められている事情のみが規定されているのであつて、この点において、本件共同漁業権行使規則自体の適法性に疑問があるのであるが、それはともかくとして、本件共同漁業権行使規則は、その一一条一項五号で、「その他理事が必要と認める事項」を承認基準とすることができるものと定め、右基準内容について被控訴人の理事に白紙委任をしているが、これは決定的な欠陥である。漁業法八条四項は、漁業権行使規則が漁業法の理念に牴触しないものであることを担保するため、漁業権行使規則は都道府県知事の認可を受けなければその効力を生じないと定めているものである。しかるに、本件共同漁業権行使規則一一条においては、承認基準は概括的に規定されているに止まり、実際は、被控訴人の理事が定めるところの点数制による承認基準によつて承認が行われておつて、これについては、都道府県知事のチエツクは法的には行われない仕組みになつているものであるから、右規定は漁業法八条一項、四項に違反する。更に、前記白紙委任条項、即ち「その他理事が必要と認める事項」が承認基準とされているので、右点数制による承認の実際に鑑みると、本件共同漁業権行使規則は前記漁業法の条文に違反するところが大である。けだし、被控訴人の理事がいかなる事項を承認基準とし、これにいかなる点数を付するかについて、漁業法に基づく都道府県知事の審査が行われず、その結果漁業の民主化が阻害されるおそれが極めて大きいからである。叙上の次第で、本件共同漁業権行使規則は、無効ではないが、少なくとも違法な条項を含んでいるものであるから、これに基づきなした被控訴人の理事の滝本に対する前記承認決定は無効である。

(3)  更に、本件共同漁業権行使規則に基づいて制定された本件承認基準は次のイないしニにおいて詳述する理由により無効であるから、これに基づきなされた被控訴人の理事の滝本に対する前記承認決定は無効である。

イ 承認基準は、本件共同漁業権行使規則の委任に基づいて被控訴人の理事が定めるものである。従つて、承認基準の改正は本件共同漁業権行使規則の変更に準ずるものであるところ、被控訴人の定款四〇条によれば、漁業権行使規則の変更は被控訴人の総会決議事項であるから、承認基準の改正は、右総会の決議を経なければならない。ところで、本件承認基準は、昭和四八年一一月一八日改正されたものであるが、右改正について被控訴人の総会の決議を経なかつた。

ロ 被控訴人の組合員の被控訴人に対する本件共同漁業権について漁業を営むことの承認を求める申請は昭和四八年一〇月一二、一三日の両日に締切られたのであるが、本件承認基準は、控訴人と滝本との右承認申請の競願が明らかになつた後である同年一一月一八日改正され、この改正された承認基準に則り滝本に対し前記承認決定がなされたものである。ところで、本件共同漁業権行使規則一一条によれば、承認基準は、少なくともあらかじめ、即ち承認申請前に各種漁業ごとに定められることが必要である。けだし、漁業法は、漁民の既得権、生活権の尊重を理念としているのであるが、事後的に承認基準を変更することは、既得権者の期待を裏切り、その生活権をおびやかすことになるからである。従つて、本件承認基準の右改正は、いわば事後法を遡及適用するためになされたものであるから、本件共同漁業権行使規則一一条、一四条に違反し、無効である。本件共同漁業権行使規則一四条は、「承認の申請期間、承認の定数、承認の基準及び漁業の制限を定めたときは、当該漁業時期の一〇日前までに公告しなければならない」と定めているが、ここに「当該漁業時期の一〇日前」とは、漁業制限を定めた場合にのみ文言どおり適用されるべきであり、その他の場合については、前記承認申請が漁業時期に入つた後に行われる場合を想定して定められた文言にすぎず、その内実は、「承認申請開始の一〇日前」と解するほかない。けだし、承認申請期間が終了した後にこれを公告することは無意味だからである。

ハ 本件承認基準の改正された内容は、次の(イ)ないし(ホ)に述べるとおり、大幅である上に、本件共同漁業権行使規則に違反しているので、被控訴人の理事の裁量権の範囲を著しく逸脱したものである。

(イ) 本件承認基準第二項目は、申請者が以前から操業してきた漁場よりも沖の漁場を申請した場合には〇・五点を減点し、以前操業してきたものと同級の他の漁場を申請した場合には減点しない旨定めているが、これは、従来の承認基準が前者の場合五点、後者の場合三点減点していたのに比して減点幅が少くなつており、当該漁業についての経験の程度を勘案して承認基準を定める旨規定した本件共同漁業権行使規則一一条一項二号及び漁業権を物権とした漁業法二三条の趣旨に反する。即ち、他の網への移動を申請した場合減点された上で従来その網で操業して来た者と比較するならば、従来操業してきた者が評価のうえで有利になるが、従前特定の漁場で操業してきた者はそれ相応の設備投資をしており(A級沖一号においては約金一五〇〇万円の設備投資を必要とする)、漁場の有効利用という点からも経験の豊富なことは有利である。従つて、既得権者が保護されるのは当然であつて、新人が入れるのは、漁場の増加、既存業者の廃業、死亡等の場合等に限定されるべきであり、従来も慣行として既得権者は尊重され、免許更新の際等、漁場の名称に変更があつても、ほぼ同一の場所で操業することが認められてきた。従つて、被控訴人の組合員が被控訴人に対し従前から操業して来た漁場を第一希望として承認申請をした場合、これが当然承認される慣行があつたから、控訴人は前記承認申請において第二希望を出さなかつた。しかるに、移動する場合の減点幅を右のとおり少くすることによつて不当に移動が容易になり、従来から操業してきた者は不利益となる。

(ロ) 本件承認基準第三項目は、「当該漁業を営むための漁船、漁網、漁具、及び必要最少限の干場又は施設が現に保有されているか否かを勘案して採点する。」旨定めているが、従来の承認基準では、この点につき、「申込みをした漁場を営むことができ得る……」と規定されていた。当該漁場と云えば、申込みをした漁場よりも広く、小定置漁場全般を指すのであるから、小定置漁場の中で相互に他の漁場へ移動する場合の減点幅は従来より少くなり、もしくはゼロになるから、前記(イ)の場合と同様に既存操業者にとつて不利になるものであり、やはり本件共同漁業権行使規則一一条一項二号に違反する。

(ハ) 本件承認基準第五項目によると、被控訴人が行つている各種信用、利用事業等に対する協力の程度が承認にあたり勘案さるべき事項となつているが、これは財産を保有する者を不当に優遇するものであり違法である。

(ニ) 本件承認基準第四項目によると、被控訴人の販、購売事業に対する協力の程度を採点の勘案事項と規定し、二五点満点としている。本件承認基準第五項目においては、前記(ハ)のとおりの規定を置き、一五点満点としている。これらは本件共同漁業権行使規則一一条一項五号該当の事由であるが、同号には、「その他理事が必要と認める事項」と定められており、いわば付随的な規定である。そのような付随的事由に対する点数の配分としては一五点は大きすぎるから違法である。

(ホ) 本件承認基準のうちに特別勘案事項として、「組合経営に対して特に功労のあつた者については特に五点以内の加点をする」旨規定されているが、従来の承認基準にはこの項目は独立して設けられておらず、第五項目中の一部であつた。この項目の新設は、被控訴人の役員又はその経験者を不当に優遇するものであつて、別に一項目設けるほど採点基準として重視することは違法である。

ニ なお、更に付言すると、本件承認基準の第四、第五項目及び特別勘案事項は、漁業の生産力の発展、水面の総合的利用、漁村の民主化のいずれにも関係しないものであり、被控訴人自体の利益を過度に優先させる、いわば全体主義思想にほかならず、明らかに、漁業法八条、本件共同漁業権行使規則の理念ないし趣旨に背馳するものであるから、無効である。

(4)  被控訴人の理事は、本件共同漁業権行使規則及び本件承認基準の解釈適用を誤つて、滝本に対し前記承認決定をなした。即ち、

イ 被控訴人の理事は、本件共同漁業権行使規則一一条一項及び本件承認基準第一項目に該当する事由として、前記1の(1) に記載のとおり、「控訴人が当該漁場に対する生計の依存度において滝本に劣る」とした。しかし、滝本が網工場を経営することによつて得る収入は、控訴人が固定資産(家屋)の賃貸によつて得る賃料よりも多いし、控訴人の小定置漁場における操業状態が滝本よりも短く、漁獲量が少いのは以下のような理由によるものである。即ち、控訴人が網を揚げていたのは冬期と夏期であるが、冬期は休漁期であつて、滝本も操業しておらず、夏期はA級沖一号の閑漁期であつて、控訴人は盛魚期に備えて網の修繕を行つていたのである。加うるに、揚網期間が長くなつた事情としてA級沖一号は貨物船や自衛艦の航路に近いため、架設した網に船が接触して網が破損することがあつたためで、控訴人としては網を揚げざるを得なかつたことがある。また、昭和四五年から同四七年までの間総体的に控訴人の漁獲量が少かつたのは魚の回遊路がA級沖一号からそれていたためであつて、控訴人が操業をしていなかつたためではない。右のとおりであるから、被控訴人の理事が、「控訴人が当該漁場に対する生計の依存度において滝本に劣る」と判断したことは誤つている。

ロ 被控訴人の理事は、本件共同漁業権行使規則一一条一項二号及び本件承認基準第二項目に該当する事由として、前記1の(2) に記載のとおり、「控訴人が当該漁業についての経験の程度において滝本に劣る」とした。しかし、控訴人が、A級沖一号と同一場所において、先代以来三〇年間も引続き操業しているのに対し、滝本は右漁場において漁業を営んだ経験が全くない。前記1の(1) に記載の揚網期間の長かつたことをもつて控訴人が経験において滝本に劣るとすることは誤つている。また、被控訴人の理事は、本件承認基準第三項目に該当するものとして、当該漁業を営むための施設の保有量においては、控訴人が滝本よりも優るとしたが、その評価を控訴人の一〇に対し滝本を九・四八とした。これは、A級沖一号がA級岡一号(従来滝本が操業していた漁場)の二倍以上の規模を有するものであることを考慮すると、不当に評価の差を縮めたものである。

ハ 被控訴人の理事は、本件共同漁業権行使規則一一条一項五号、本件承認基準第四、第五項目に該当する事由として、前記1の(3) に記載のとおり、「控訴人が被控訴人の事業に対する協力の程度において滝本に劣る」とした。そのような事情が存在したことは認めるが、それは、被控訴人のトラツクが控訴人が鮮魚を陸揚げする場所まで来ないためでもあり、やむを得ないところであるし、また、そもそも本件承認基準第四、第五項目は、主として本件共同漁業権行使規則一一条一項五号に該当するものであるが、これは、一号から四号を補充する趣旨の規定であつて、規定としてのウエイトは軽く扱われるべきものである。それにもかかわらず、この規定に該当する事実を過大評価して、本件共同漁業権につき漁業を営む者を定めることは、本件共同漁業権行使規則一一条に違反するものである。

ニ 被控訴人の理事は、本件共同漁業権行使規則一一条一項三号、本件承認基準第五項目に該当する事由として、控訴人が権利なくしてさけ定置網漁業を行い漁業法九条に違反した行為をしたことをあげ、そのような行為をしなかつた滝本よりも劣ると評価した旨述べていた。しかし、滝本は、昭和四八年一一月七日被控訴人の組合長に選出されてから右違法操業を黙認し、証拠隠滅をした責任者であるから、控訴人よりも大きく減点されるべきであつた。しかし、右操業違反の問題は、終局的には被控訴人の理事会において何ら審査の基準とはされていない。

(5)  被控訴人の理事が以上に述べたごとく漁業法、本件共同漁業権行使規則に違反した承認基準を設け、本件共同漁業権行使規則の解釈運用を誤つて、滝本に対し前記承認をなしたのは、ひとえに、被控訴人の理事を含む被控訴人の役員及びその近親者らが漁獲高の多い漁場の行使権者となることを目的として、故意に控訴人をA級沖一号の漁場から排除しようとしたものであつて、被控訴人の理事の裁量の範囲を逸脱したものであり、このことは、前記の各事実のほか、次の事実があることからも明らかである。

イ 従来滝本は、七年前からA級岡一号とA級岡三号の漁場において訴外菊地清人との間で一行使期間を前半と後半とに分け、交代で相互に操業して来たが、今回の申込みにあたり、滝本は第一希望をA級沖一号、第二希望をA級岡一号とした。また、被控訴人理事山崎留三郎は、同人が従来操業していた二区C級一号を同人の甥である山崎智記に譲つて申込をさせ、自らは長らく訴外小田政四郎が操業していたA級岡六号に申込みしたところ、山崎留三郎が長らく被控訴人の副組合長であつたことを理由に、同人がA級岡六号の行使権者と定められた。そのため、右小田はやむを得ず滝本のあとのA級岡三号へ移つた。その他A級沖二号の行使権者と定められたのは滝本の本家である訴外滝本正市、A級岡五号の行使権者と定められたのは滝本の兄の訴外坂見佐一郎である。右の事実は、近年A級沖一号及びA級岡一ないし四号の茂辺地寄りの網が不漁となり、A級沖二号、A級岡五号等の函館寄りの網が豊漁となつたため、滝本、山崎らが結託して一族で豊漁の漁場を独占しようとしたが、A級沖七号は滝本、山崎いずれの居宅からも遠いので、滝本が控訴人の操業していたA級沖一号を、山崎が小田のA級岡六号を横取りしようとはかつたことを示すものである。

ロ 今回新たに小定置漁場を獲得した新人は、被控訴人の理事山崎留三郎の甥である訴外山崎智記、同山崎智光、漁業権管理委員会委員長の訴外菊地和吉、同人の親類である訴外畠山孝雄、漁業権管理委員の訴外堂端明の弟である訴外浜谷直司らであつて、いずれも何らかの形で、被控訴人の理事、役員とつながりのある者である。

ハ 堂端明はもともと一区C級一四号で操業してきたが、今回それを訴外浜田幸次郎に譲り、一区C級六号へ申込みしたところ、同人の弟の浜谷直司も前記のとおり同区へ申込みをしたため、申込締切時間五分前に第一希望を一区C級六号、第二希望を原審相債権者福田留次郎の一区C級四号として申込みをなしたものである。堂端明が申込みの段階で右のような作為をしたのは、他の新人を牽制しつつ自らと縁故のある者で漁場を独占しようとする意図のあらわれである。

ニ 前記(3) のハの(イ)に記載のとおり被控訴人の理事会は、本件承認基準第二項目につき、従来操業してきた漁場へ申請した場合の減点幅を著しく縮少する旨改定をなしたが、右を含めた承認基準の改定は、控訴人らの優位する点を減少させるべくなされ、右のイないしハの結果を予測してされたものであり、これは、右決定自体が申請受付を締切り競願者等がすべて判明してから行われたことからも明らかである。これは、共謀して特定の者を有利にするために、恣意的に承認基準を定め、審査を行つたことを示している。

(四)  以上の次第で、被控訴人の理事が昭和四八年一一月二八日滝本に対しなしたA級沖一号において小定置漁業を営むことを承認する旨の前記決定は無効であるから、控訴人は、前記承認の有効期間満了後においても依然として本件共同漁業権に基づいて漁業法八条一項に規定する漁業を営む権利を失わない。

六  再抗弁に対する被控訴人の認否

(一)  再抗弁(一)は争う。

漁業法は、漁業における旧来の封建的慣行を否認し、漁業の内容及び漁業権の行使主体を全面的に再検討するため、漁場計画制度、漁業権の存続期間制度を設け、一定の期間ごとに、漁業権を消滅させて漁場計画を立て直すこととし、新たな漁場計画に基づいて新しい漁業権の免許を行う方式をとつた。従つて、存続期間が満了すれば、従前の漁業権は当然に消滅し、申請人の申請に基づいて新たな漁業権が、都道府県知事の免許により設定されることとなるから、このような形式、実体を直視すれば、漁業権免許は新たに権利を設定する形成的行為であり、鉱業法に基づく鉱業許可と同様講学上の「設権行為」ないし「特許」といわざるを得ない。ところで、鉱業法上の試掘権にあつては、存続期間の満了後も権利が存続するとみなす規定をおいているが、これは鉱業法においては漁業法における漁場計画の事前樹立(同法一一条、一一条の二)のごとき制度がないため、試掘権の申請と許可までの間の時間的経過により既存の試掘権が消滅して権利の空白を生ずることを避けるよう配慮したからである。この点につき漁業法では、漁業権の存続期間の満了日ないし免許予定日(満了の翌日)三箇月以前に漁場計画を樹立することを免許権者たる知事に義務づけ、しかも海区漁業調整委員会から積極的に知事に対し、漁場計画を樹立すべき旨の意見を具申させて、存続期間の満了にあたり、権利の空白期間を生じないよう運用面での法的配慮がなされているのである。してみれば、右説示と異なる見解を立論とする控訴人の再抗弁(一)の主張は失当である。

(二)  再抗弁(二)のうち、控訴人がその主張の承認の有効期間満了後においても本件共同漁業権行使規則二条所定の実質的資格を備えていること、控訴人主張のとおり、控訴人が被控訴人に対しA級沖一号において小定置漁業を営むことにつき承認するよう申請したところ、被控訴人の理事が、右申請につき承認をなさず、昭和四八年一一月二八日滝本に対し右漁業を営むことにつき承認する旨の決定をなしたことは、いずれも認めるが、その余は争う。

(三)  再抗弁(三)の1は認める。

(四)  再抗弁(三)の2の(1) のうち、山本隆が昭和四八年一一月一七日被控訴人の理事をも辞任したい旨の意思表示をしたこと、その後も後任の理事が選任された同年一二月一二日まで理事としての権利義務を有していたことは認め、山本隆に対し理事会開催の招集通知がなされなかつたことは否認する(この点に関し、先に「右招集通知をしなかつた点は認める」旨自白したが、この自白は真実に反し錯誤にでたものであるから撤回する)、その余は争う。

本件小定置漁業の行使者承認の審査等を議題とする被控訴人の理事会の開催については、被控訴人の定款三四条一項に従い、昭和四八年一一月八日被控訴人の組合長滝本正雄名の文書で山本隆を含めた全理事に対し招集通知がなされた。右理事会は、右通知に示された期日である一一月一〇日から二八日まで継続してもたれ、その間右のとおり開催された各理事会において順次次回開催日時が定められたものであるが、右各理事会において審査等がなされた事項は、すべて前記招集通知に議題として記載されていた事項に関するものであつた。従つて、右理事会はいわゆる継続会であるから、最初になした通知の効果は終了まで持続するものであつて、その間各開催日ごとに別途招集通知をすることを要しない。現に各期日ごとに別途招集通知をしていなかつた。また、A級沖一号については、利害関係人である滝本を除く五名の理事(ただし山本隆は欠席)が審査をし、それぞれ審査した理事全員が、滝本を行使権者として承認した。従つて、たとえ山本隆が理事会に出席していたとしても右結論に影響はない。

(五)  再抗弁(三)の2の(2) は争う。

漁業権行使規則自体において承認基準の運用基準を具体的仔細に定めることは技術的に困難である上に、承認基準に基づく有資格者の選定、判定方法等の運用基準の設定は、漁業権者の自治法規である漁業権行使規則によつて、理事(会)の裁量に相当程度委ねられているものであり、承認基準決定の意図目的に不正があるとか、承認基準が著しく公平、正義に反するとか、被控訴人の設立目的、被控訴人の組合員全員の利益に反する等一見明白に本件共同漁業権行使規則に違反すると考えられる場合にのみ、その承認基準の無効の問題が生ずるのであつて、本件承認基準第一ないし第五項目及び特別勘案事項は、いずれも一見して明白に本件共同漁業権行使規則の基準に違反するとは到底いえないものである。本件承認基準が存在しないとすれば、本件共同漁業権行使規則一一条の基準に合致するか否かの判断は、すべからく被控訴人の理事の主観的裁量によつて行われることとなり、その判断の客観性を担保すべき保障はなんらなく、場合によつては却つて偏頗な判断がなされることなしとしないのである。してみれば、控訴人の再抗弁(三)の2の(2) の主張は失当である。

(六)  再抗弁(三)の2の(3) のイは争う。

本件共同漁業権行使規則は、承認基準の制定権限を被控訴人の理事に委任しているので、右承認基準の改正権限も当然右理事に委ねられているものであるから、本件承認基準の改正には被控訴人の総会の決議を必要としない。

(七)  再抗弁(三)の2の(3) のロは争う。

本件承認基準は、控訴人らが被控訴人に対し承認申請をなしたのちに改正されたものであるが、その改正内容については、控訴人の所属する被控訴人の地区実行組合においてすべて右承認申請前に説明会を開き、全組合員に周知徹底した上、その了承を得たものである。それ故、本件承認基準の改正が右承認申請後に行われたからといつて、控訴人は、その内容を事前に熟知していたものであるから、信義則上事後改正、ないし改正公告の欠缺を主張することはできないものである。

(八)  再抗弁(三)の2の(3) のハの(イ)のうち、本件承認基準の規定が控訴人の主張のとおり旧基準と比較して減点幅が改定されたことは認めるが、既得権者が従来保護されてきたこと、あるいはその慣行があつたことは否認し、既得権者が保護されるべきであるとの主張は争う。

旧来の漁業権行使権は承認期間の終了をもつて満了し、その後は全く新たに行使期間が始まるのである。被控訴人の有する本件共同漁業権自体昭和四八年九月一日付で従来の権利とは全く別個に新たな免許を受け、設定されたものである。そもそも漁業権行使規則を定めたり、第二希望を出させたりすることは行使権者を定めるために審査することを予定していることのあらわれであつて、既得権で取得した行使権者が継続するのであればその必要もないはずである。過去において承認期間が切り替つた際従前の行使権者が行使権を失つた例もしばしばであつた。なお、減点幅を縮少したのは旧来のまゝでは新人にとつて不利になりすぎたからである。

(九)  再抗弁(三)の2の(3) のハの(ロ)ないし(ホ)のうち、本件承認基準の規定が控訴人の主張のとおりであることは認めるが、本件承認基準が違法無効であるとの主張は争う。

(一〇)  再抗弁(三)の2の(3) のニは争う。

(一一)  再抗弁(三)の2の(4) のうち、被控訴人の理事会においてなされた評価及び審査が控訴人の主張のとおりであることは認めるが、右評価及び審査が不当、違法であるとの主張は争う。

漁場の設定は漁獲の格差を最少限度にするため位置、垣網の長さ、総数等を定めて行つているのであるから、漁獲の格差原因はむしろ当該漁場を経営する者の網の仕立、漁具の良否、漁期中の稼働態度、熱意等によるとみられるところである。

(一二)  再抗弁(三)の2の(5) のうち、被控訴人の理事が、理事を含む被控訴人の役員及びその近親者らが漁獲高の多い漁場の行使権者となることを目的として故意に控訴人をA級沖一号の漁場から排除しようとしたものであつたとの主張は争う。

(一三)1  再抗弁(四)は争う。

2  本件共同漁業権の行使権者の決定は本件共同漁業権行使規則により被控訴人の理事会の権限とされ、その理事会は、本件共同漁業権行使規則に基づいて漁業権管理委員会の意見を聞いたうえで同規則一一条一項(1) ないし(5) の事項を勘案して承認基準を定め、これに従つて承認の有無を決定すればよいのであつて、右理事会の大幅な裁量に任された事項である。

従つて、右承認の決定が著しく本件共同漁業権行使規則、本件承認基準の範囲を逸脱し、社会通念上容認できないようなものでないかぎり、違法、無効とはならないものであるところ、右承認決定に至る審査手続は次の(1) ないし(3) に述べるとおり適法に行われ、またその内容においても何ら右理事会の裁量権の範囲を逸脱する不当なものではないから、右承認決定は有効である。

(1)  被控訴人の理事会は、昭和四八年九月、本件小定置漁業につき、あらかじめ漁業権管理委員会の意見を聞いた上、漁場の位置、承認の数、申請者の数が右承認の数をこえた場合の承認される者を定める承認基準の大要、申請方法等を定め、同年一〇月二、三日開催された公聴会において出席した役員等を通じ各組合員に周知させた。その後同年同月一一日漁場の公示を行い、各実行組合長を通じ各組合員に対し受付及び申込み方法を通達し、同年同月一二、一三日の両日申請を受付けた上、前記(四)記載のとおり理事会を開催し、同年一一月一八日本件承認基準を別紙二のとおり決定した。

(2)  次いで、同年一一月一九日から、右理事会は、本件小定置漁業の行使者承認に関する実質審査に入つたところ、A級沖一号については控訴人と滝本とが各第一希望で、競願となつた。そこで同年一一月二四日右理事会は、控訴人と滝本とについて審査した結果A級沖一号の行使権者を滝本と仮決定した。そして、同年同月二七日最終審査を行い、全理事(ただし、山本隆を除く)が仮決定に異議なく承認したため、A級沖一号につき滝本が行使権者として承認された。

(3)  右理事会における本件小定置漁業の行使者承認審査の方法は次のとおりであつた。即ち、審査の対象となる各人につき、被審査者及びその三親等内の親族を利害関係人として除外したのち承認基準に定めてある各項目の配点の範囲内で各理事が項目毎に評点をなした結果を事務局で集計して各人の項目別平均点の合計を算出し、点数の多い者が優先され、行使権者とされた。本件において控訴人及び滝本に対する各理事の評点及び集計の結果は別紙三のとおりであり、このような結果となつた主たる理由は前記五の(三)の1の(1) ないし(3) に記載のとおりである。

第三証拠関係〈省略〉

理由

一  被控訴人が水産業協同組合法に基づき昭和二四年設立された漁業協同組合で、控訴人がその組合員であること、被控訴人が昭和四八年九月一日北海道知事より本件共同漁業権の免許を受け、じ来これを有すること、被控訴人が本件共同漁業権につき制定した本件共同漁業権行使規則は、被控訴人の組合員のうち、別紙一記載の同規則二条所定の実質的資格と被控訴人の理事から本件共同漁業権に基づき漁業を営むことにつき同規則三条所定の承認を受けたという形式的資格とを備えた者のみが本件共同漁業権に基づき漁業法八条一項所定の共同漁業権行使規則で規定する資格を有する者として本件共同漁業権の範囲内において漁業を営む権利を有することになる旨定めていること、ところが、控訴人は、本件共同漁業権行使規則二条所定の実質的資格を備えていること、また控訴人は昭和四五年一月一日被控訴人の理事から、当時被控訴人が有していた本件共同漁業権の目的海域と同一海域についての第二、第三種共同漁業権(昭和三八年九月一日北海道知事免許にかかるものであつて、これについても、被控訴人は本件共同漁業権行使規則と同一内容の共同漁業権行使規則を制定してあつた。本件共同漁業権は右共同漁業権が一〇年の存続期間を満了した日の翌日に免許されたものである)につき、A級沖一号において小定置漁業を営むことにつき承認を受けたこと、被控訴人理事のした右承認は被控訴人が本件共同漁業権の免許を受けたのちは、本件共同漁業権行使規則三条所定の承認を受けたものとしての効力を有したものであることは、いずれも当事者間に争いがない。これによれば控訴人は、被控訴人が昭和四八年九月一日本件共同漁業権の免許を受けると同時に本件共同漁業権に基づきA級沖一号において漁業法八条一項所定の漁業を営む権利としての小定置漁業を営む権利を取得したものといわなければならない。

二  そこで、被控訴人の抗弁について判断する。

(一)  被控訴人の理事が、昭和四五年一月一日に、当時被控訴人が有していた前記共同漁業権につき、控訴人に対してなした前判示の承認が有効期間を四年として即ち右同日から昭和四八年一二月三一日までと定めてなされたものであること、右共同漁業権は昭和四八年八月三一日をもつて一〇年の存続期間を満了することになつていたが、右存続期間が満了すれば、被控訴人がまた新らたに北海道知事から右共同漁業権と同一内容の共同漁業権の免許を受けることができることは確実と予想されたので、右承認における四年の有効期間は、被控訴人が昭和四八年八月三一日まで有する前記共同漁業権と被控訴人が昭和四八年九月一日に免許を受けて取得すべき共同漁業権即ち本件共同漁業権との双方にまたがるものとして定められたものであることはいずれも当事者間に争いがない。上叙事実関係によれば本件共同漁業権のもとにおける右承認の有効期間として昭和四八年九月一日から同年一二月三一日までの五ケ月間と定められていたことになる。これによれば特異に解すべき特段の事由の認められないかぎり、右承認の有効期間の終期の日である昭和四八年一二月三一日の経過とともに控訴人は、本件共同漁業権に基づきA級沖一号において漁業法八条一項に規定する漁業を営む権利としての小定置漁業を営む資格を失い、従つてその権利を失つたものといわなければならない。

(二)  控訴人の再抗弁について

控訴人は、右承認の有効期間は被控訴人の理事が承認をなした際考慮した承認基準に定める条件が存続しているかどうかを承認の時から四年後(本件共同漁業権免許の時から五ケ月後)に確認するために定められたものにすぎないので、右承認の有効期間満了後でも控訴人が本件共同漁業権行使規則二条所定の実質的資格を備えているかぎり、控訴人が被控訴人の理事に対し右承認の有効期間満了後においても引き続き漁業を営むことの承認の申請をなしたにもかかわらず、右理事が、これを放置して承認しない場合、又は右理事が控訴人より他の者に対し右申請の漁業を営むことの承認をなしても右承認が無効である場合においては、控訴人は、本件共同漁業権に基づきA級沖一号において漁業法八条一項に規定する漁業を営む権利としての小定置漁業を営む権利を失わず、依然としてこれを有するものである旨主張する。よつて、案ずるに、

1  共同漁業権は、一定の水面を共同に利用して漁業法六条五項一号ないし五号所定の漁業を営む権利をいうものである(漁業法六条五項)。ところで、共同漁業権の免許を受けることができる適格者は、漁業法一四条八項所定の、漁業協同組合、又は漁業協同組合連合会(以下漁業協同組合等という)のみであるがその法意は共同漁業権の内容とされる漁業(漁業法六条五項一号ないし五号所定の漁業)は、本来その漁法からみて経営者が誰でなければならぬというような漁業ではなく、またその経営に多額の資本を要しないものであり、本来漁民はかかる漁業を自由になしうるものであるが、漁民が右漁業を自由奔放に営むことを放置しておくと、過当競争に陥ちいり結局漁民全員の利益を害することになるおそれがあるので、漁業協同組合等にのみ右漁業につき独占的な管理権としての共同漁業権の免許を与え漁業協同組合等をして漁民たるその直接又は間接の所属組合員の営む右漁業につき相互間の利害を調整管理して、右組合員の健全な漁業経営の助成指導にあたらせるに在るものと解される。それゆえ共同漁業権の免許を受けた漁業協同組合等は自ら当該共同漁業権を行使して当該共同漁業権の内容たる漁業を営むことはできず、右漁業協同組合等所属の組合員のうち、右漁業協同組合等が右協同漁業権につき制定した共同漁業権行使規則で規定する資格に該当するもののみが右共同漁業権につき漁業を営む権利を有するものである(漁業法八条一項)。そこで、右漁業法の仕組みから考察すると、漁業協同組合等は、その所属組合員が当該漁業協同組合等保有の共同漁業権の内容たる漁業を営むについて、右組合員各自が公平、円滑に右漁業を営むことができるよう調整、管理をなす役割と権能とを有するものであつて、右共同漁業権につき共同漁業権行使規則を制定して、これに一定の資格を定め、これをもつて、右漁業を営むことができる組合員の人数や範囲、これらの者が右漁業を営むことができる期間を制限する等の措置をこうずることができ、右組合員も右の制限等に従つてのみ右共同漁業権の内容たる漁業を営むことができるものと解される。ところで、被控訴人が本件共同漁業権につき制定した本件共同漁業権行使規則は、被控訴人の組合員のうち、右行使規則二条所定の実質的資格と被控訴人の理事から本件共同漁業権に基づき漁業を営むことにつき同規則三条所定の承認を受けたという形式的資格とを兼ね備えた者が本件共同漁業権につき漁業法八条一項所定の共同漁業権行使規則で規定する資格を有するものとして本件共同漁業権の範囲内において漁業を営む権利を有する旨規定していることは先に判示のとおりでありかかる規定が共同漁業権制度の前示法意に反するものでないことはいうまでもない。しかして共同漁業権制度の前示法意に鑑みると漁業協同組合等がその所属組合員のうちの特定の者に対し当該漁業協同組合等保有の共同漁業権につき独占的ないしは固定的に漁業を営むことを認めることは右漁業協同組合等が共同漁業権を取得した目的に反するものであるから好ましくないことは明らかであるが、成立に争いがない甲第二号証、乙第一ないし第四号証、原審証人鈴木旭、並びに原審及び当審証人川越平雄の各証言によれば、通常、漁業協同組合等においては、一旦その所属組合員に対しその保有の共同漁業権の範囲内で漁業を営むことを認めた場合においてもその者の既得の地位ないし権利をあまり重視せず、できるだけ所属組合員が公平に右共同漁業権につき漁業を営むことができるよう配慮して、輪番制又は交替制により右漁業を営むことができる者を選出している例が多いが、被控訴人も原則としてこれにならつていること、被控訴人が本件共同漁業権につき制定した本件共同漁業権行使規則には、本件共同漁業権の内容となつている漁業を営もうとする者は被控訴人の理事に対し一定の申請書を提出して右理事の承認を受けなければならないこと(同規則三条)、右承認には、ほつけ、かれい、いか、いわし、ぶり、さばの小定置漁業については五年以内、その他の漁業については一年以内の有効期間を定めることができること(同規則四条)、被控訴人の理事が組合員に対し本件共同漁業権につき漁業を営むことを承認したときはその承認証を交付するものであること(同規則五条)、承認を受けた者は、当該承認に係る漁業を操業するときは、承認証を自ら携帯し、また操業責任者に携帯させなければならないこと(同規則六条)、しかし、右承認を受けた者は、当該承認がその効力を失い又は取消された場合には、すみやかに右承認証を右理事に返納しなければならないこと(同規則七条)等を定めた規定が設けられており、被控訴人の理事は右規定に則り、被控訴人の所属組合員に対し本件共同漁業権につき漁業を営むことの承認をなしていること、被控訴人の理事は、有効期間の定めのある承認を受けた者が右有効期間満了後も引き続き右承認にかかる漁業を営むことを希望する場合においては、競願者の有無にかかわらず、右希望者をして、右有効期間満了前に、右有効期間満了後の漁業を営むことの承認につき一定の要式を指定した申請書を提出させて、これにつき承認の諾否を審査し決定しているが、右承認申請書には、第一希望と第二希望欄が設けられていて、右承認申請にかかる漁場について競願者がある場合は、右漁場について過去に漁業を営むことの承認を得ていた者がそのことだけを理由に優先して承認されるように取扱われてはいないことがそれぞれ認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  漁業法における共同漁業権制度の前示立法趣旨及び右認定の事実によれば、被控訴人の理事の定めた本件共同漁業権についての前示承認の有効期間は、控訴人が主張する如き、被控訴人の理事が承認をなす際考慮した承認基準に定める条件の存続を所定期間を経過したときに再確認するために定められるものとは認められず、それは字義どおり被控訴人の理事が被控訴人の組合員に対し、本件共同漁業権につき漁業を営むことの承認をなす際、右承認の効力が存続する期間を限定するために付したものと解するを相当とする。

控訴人は、漁業権免許の性質が講学上の「許可処分」であること、また試掘権につき鉱業法一八条、二〇条の規定が存在することを理由に前記再抗弁の主張を立論しているが、漁業権免許の性質が控訴人主張のとおりであるか否かはともかくとして、共同漁業権を漁業協同組合等にのみに保有せしめた漁業法の前示立法趣旨からみると、漁業法八条一項に規定する資格を有する者の共同漁業権の範囲内での漁業を営む権利については、一旦右権利を得たからといつて右資格の存続の有無を問わずに既得の地位ないし権利としてこれを尊重すべきでないことは明らかであるから、右漁業権免許の性質からただちに控訴人の右主張を立論することは失当であり、また、右鉱業法の条文を右漁業を営む権利に類推適用することも相当でない。してみれば、控訴人の再抗弁は、じ余の点につき判断するまでもなく、失当であつて採用できない。

ほかに、前示承認にかかる有効期間なるものの趣旨につき、その字義に反した特異な解釈を採らなければならぬ事由につき、控訴人は主張、立証するところがない。

(三)  以上のとおりとすると、被控訴人の理事が付した前記承認の有効期間の終期の日である昭和四八年一二月三一日の経過とともに前記承認は効力を失つたものというべく従つて控訴人は、右同日の経過とともに、本件共同漁業権に基づきA級沖一号において漁業法八条一項に規定する漁業を営む権利として小定置漁業を営む資格を失い、従つてその権利を失つたものといわなければならず、被控訴人の抗弁は理由がある。

三  叙上の次第で、控訴人がその主張の被保全権利を有することの疎明はない。なお、本件全疎明資料によるも控訴人に保証を立てさせて右疎明に代えることを相当とするような事情は認められない。

四  そうすると、控訴人の本件仮処分申請は、保全の必要性の有無につき判断するまでもなく失当としてこれを却下すべきである。

五  よつて、右と結論において同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、民訴法三八四条二項に基づいて本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき同法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 宮崎富哉 長西英三 山崎末記)

(別紙一)

渡海第二四号第二、第三種共同漁業権行使規則(抜粋)

(目的)

第一条 この規則は、本組合の有する渡海共第二四号共同漁業権(以下「海共第二四号」という)の管理及び行使に関し、必要な事項を定めることを目的とする。

(漁業を営む権利を有する者の資格)

第二条 次の表の左欄(上欄)に掲げる漁業について、当該漁業を営む権利を有する者の資格は、それぞれ同表の左欄(下欄)に掲げるとおりとする。

表〈省略〉

2 前項の資格を有する者が死亡した場合、その相続人、相続人が二人以上である場合において、その協議により、当該漁業を営むべき者を定めたときは、その相続人が、現に組合員であるか、又は後日組合員となつたときは、同項の資格を有する者とみなす。

(承認の申請)

第三条 海共第二四号の内容となつている漁業を営もうとする者は、漁業の種類ごとに理事が定める期間中に別紙第一号様式の申請書を理事に提出し、その承認を受けなければならない。

(承認の有効期間)

第四条 次の表の左欄(上欄)に掲げる漁業の有効期間は、それぞれ同表左欄(下欄)に掲げるとおりとする。

表〈省略〉

(承認証の交付)

第五条 理事は、承認したときは、その申請者に別記第二号様式の承認証(漁業旗章)を交付するものとする。

(承認の定数)

第一〇条 理事は、水産動植物の繁殖保護又は漁業調整上必要と認めるときは、海共第二四号の内容となつている漁業について、その承認の数(以下「定数」という)を定めることができる。

2 理事は、前項の定数を定める場合には、あらかじめ管理委員会の意見を聞くものとする。

(承認の基準)

第一一条 第三条による申請が前条第一項の規定により定められた定数をこえる場合には、理事は少なくとも次に掲げる事項を勘案して漁業ごとに承認基準を定め、これに従つて承認するものとする。

(1)  当該漁業に、その者の生計が依存する程度

(2)  当該漁業についての経験の程度

(3)  当該漁業の操業についての違反事実の有無

(4)  この規則若しくは、この規則に基づく規約又は制限の違反事実の有無

(5)  その他理事が必要と認める事項

2 前条第二項の規定は、前項の規定により承認の基準を定める場合に準用する。

(公告)

第一四条 理事は第三条、第一〇条第一項、第一一条第一項及び前条第一項の規定により、承認の申請期間、承認の定数、承認の基準及び漁業の制限を定めたときは当該漁業時期の一〇日前までに公告しなければならない。

2 前項の公告は、本組合の掲示場に掲示するほか、次の実行組合を通じ正組合員に通知しこれを行う。

東浜町地区 第一実行組合

本町、会所町、川原町、新浜町地区 第二実行組合

谷好町地区 第三実行組合

冨川町、館野地区 第四実行組合

(別紙二)

昭和四八年度小定置網漁業権行使承認基準

第一項目 (三五点満点)

◎ 当該漁業に、その者の生計が依存する程度

申込者が当該漁業の収入で生活する比重と他収入(定給者)との比重を勘案し採点する。

第二項目 (一五点満点)

◎ 当該漁業についての経験の程度

過去四ケ年間中に一ケ年間以上休業した者は減点するほか、盛漁期に休業している者は一ケ月であつても減点する。又従来行使の経験をした漁場より沖網に申込した者については一段階沖に出る毎に〇・五点を減点する。

尚又、申込者が切替前に共同経営者であり、今回の申込が単独の場合は、双方とも点を減点する。ただし切替前の共同が組合の調整による場合は、この限りでない。

第三項目 (一〇点満点)

◎ 当該漁業を営むための漁船、漁網、漁具及び必要最少限の干場又は施設が現に保有されているか否かを勘案して採点する。

第四項目 (二五点満点)

◎ 販、購買事業に対する協力の程度

過去四ケ年間中に申込者が行使した漁場及び他種漁業の水揚された漁獲物が全量出荷されているか否かを審査するほか、四ケ年間行使した各種漁業を経営するために必要とした漁網、漁具資材のうち、組合を通じて購買した度合を勘案して採点する。

第五項目 (一五点満点)

◎ 組合が行つている信用事業(貯金、貸付金)に対する協力の程度

◎ 利用事業に対する協力の程度

◎ 貸付金、購買品の売掛金の延滞の有無

◎ 当該漁業の操業についての違反の有無

◎ 四ケ年間中操業行使した各種漁業の操業についての違反の有無

特別勘案事項

組合経営に対して特に功労のあつた者については五点以内の加点をする。組合経営に対して特に組合、又は組合員に対して非協力的事実があり、この事に処して損失を与えた者については点以内の減点とする。

(別紙三)(採点表)〈省略〉

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